月末の自分へ

【第一章】ep1.ブラック営業マン_営業デビュー

私はこうして社会人の仲間入りを果たした。

目次

「鉄人」との出会い

2010年代初め、私は営業職として入社した。

営業所への赴任日初日は非常に緊張していたのを今でも鮮明に覚えている。

新人だから最初が肝心ということで営業所につくなり、大声で自己紹介をした。

「本日からお世話になります。新人の〇〇です!これから宜しくお願い致します!」

所内は失笑に包まれた。幸い時間帯が昼間で営業の方々が外に出ていて、人が少なくて助かった。

今思うととても恥ずかしいが、当時は一杯一杯でそんなことを考える余裕がなかった。

「ここで社会人生活がスタートするのか。頑張ろう。」そんな気持ちで初日を終えた。

私の会社では新人にはブラザーという教育係がつく。

そのブラザーの紹介をここで少し。そのブラザーの異名は「鉄人」である。

読者の皆様は「ん?」と思うだろう。実際、上司からその異名を伝えられた時、私もそう思った。だがその理由はすぐに判明した。

なんとある日のその先輩は、夜の22時に営業所に「お疲れ様でした」と営業先から帰社してきたのだ。

(新人の私が22時まで会社にいることはここでは触れないでいただきたい。)

その瞬間「この人、営業所を家と勘違いしているのか。いや、本当に鉄人なんだ。」と思ったのを今でも鮮明に覚えている。 入社して2週間後の出来事である。

そんな鉄人ブラザーのご指導の下、私は社会人生活をスタートしていくことになる。

ブラザー「鉄人」

鉄人エピソード①:めちゃくちゃ働く。

まだ担当を持っていない私は、ブラザーとともに過ごすことが多く、ブラザーのお客さんへ一緒に訪問していた。「悪い、今日夜20時から打ち合わせになってしまった」そんは話を当日の朝言われる。

私としては断る選択肢などなく、「わかりました。よろしくお願いします。」と元気よく答えることしかできなかった。

「大事な商談は定時以降が腰を据えてじっくりできるんや。」そうおっしゃっておられた。

素直に仕事に夢中になっている姿勢が凄いと思った。

鉄人エピソード②:常に金欠

私が最初にブラザーからご馳走になったのは、ファミレスのドリンクバーである。

営業からの帰り道、「ご飯でも行こうや」と嬉しい誘いに二つ返事をし、いざ入店。

会計時、「あかん、金ないや。ドリンクバーだけで勘弁してや」というお言葉を頂戴した。

お金を増やすために仕事終わり、一緒に行ったパチンコで、ふと隣をみたらハンドルを握りながら眠りについていた横顔はまさに鉄人のそれであった。

パチンコしながら寝る人は初めて見た。

隙間時間で睡眠をとる鉄人。常に戦闘民族。

そんな鉄人ブラザーはとても人情味があり、面倒見がとても良い。

仕事でわからないことや、悩んでいることに対して一緒に考えて、解決の道筋を提示してくれる。

ただ、その時間は鉄人の業務が終わったあと行われるので、開始時間が必然的に遅くなる。

毎日23時、24時まで会社にいることは当たり前だった。

でもそんなに遅くまで仕事をしていても苦にならないほど、同じ職場の方々には恵まれていた。

仕事は過酷だったが、職場のメンバーに恵まれていたから、会社を辞めずに続けてこれたといっても過言ではない。

私の家は、会社から徒歩で20分程度の場所だったが、一番過酷な時は、家にも帰れず、会社の駐車場に止めていた車の中で、15分ほど仮眠をとるほどのレベルだった。

当然、その時鉄人は、会社の会議室で寝ていた。

世間的にこのような環境が当たり前だったのか分からないが、私はこの営業所に新人時代の3年間、お世話になった。

そして転勤。

鉄人ブラザーとの別れ。新しい環境下でまた営業職としての仕事をスタートすることになった。

あと1件が成果を掴む

話は少し戻り、新人時代の3年間の私のお話をさせて頂く。

「あと1件が成果を掴む」これは私がこの新人時代の3年間で学んだことの1つである。

営業職の方はわかって頂けると思うが、営業先で時間も夕方、取り敢えず今日の訪問予定は全て終わった。

その時「あと1件得意先へ訪問しようかな、どうしようかな、1件寄ったら帰宅時間も遅くなるしな。」と自問自答するケースが私はよくあった。

振返ってみると、帰りたい自分に打ち勝って「あと1件」訪問した時は、思いもよらない有意義な面談になるケースが多かった。

競合他社の状況や得意先の悩み、また普段忙しくてなかなか話を聞いて頂けないのに、商品の話をしっかり聞いてくれたりと、特に関係が浅くアポがなかなか取れない先での面談に非常に大きな効果があった。

上司への報告内容としても中身が濃くなる内容になることも多くあった。

正直言うとこの「あと1件訪問」はとてもめんどくさい。

当たり前だが、別に誰かに指示されているわけでもないし、やらなくてもいいことなのである。

負ける時ももちろんある。

ただこの弱い自分に打ち勝った時の私の頭の中には、「鉄人」の「大事な商談は定時以降が腰を据えてじっくりできるんや。」という言葉が浮かんでいた。

鉄人ブラザーの言葉。

ダメもとで「あと1件行ってみよう。」と背中を押してくれた言葉である。

そこから迷った時、自問自答する際に「昨日の自分に勝つ」「昨日の自分より成長する」という事を意識するようになった。

「あと1件、あと1歩」が「あと2歩、3歩…」と自分に打ち勝ってこれた人はスタート時点は同じでも時間経過とともに桁違いに成長していくんだろうなと改めて思う。

私はそこまで頑張れなかった人間だ。楽な方、楽な方へと流されやすい人間である。

そんな弱い私でも10回に1回打ち勝つことがある。それが5回に1回と頻度が変わってくる。

これからもそうやって私も少しづつ「昨日の自分より成長」していきたい。

それでは、次回「泥にまみれる」でお会いしましょう。

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